参考資料

「資本」の意義

 1  調達と運用の統一的把握
 2  資本調達の意義
 3  資本調達源泉の種類
 4  株式による資本調達(株式金融)
 5  普通株
 6  優先株
 7  社債による資本調達(社債金融)
 8  借入による資本調達(借入金融)
 9  経営活動に基づく資本調達(内部金融
10  調達と運用の統一的把握
11  資本調達の意義

1 調達と運用の統一的把握

 このテーマを検討するに当たって、「資本」というものが企業とどれほど密接な関係にあるかを明らかにし、また説明することによって、今回の副題である資本構成問題としての資本の調達面と、投資意思決定問題としての資本の運用面の関連性が明示できると思われるためこの辺りから論じていこう。 

 一見すると資本の調達問題と運用問題とは資本の循環プロセスの中で異なった位置にあるため、それぞれが独立していると思われがちだが、実はそうではない。企業は企業自信の利益を最大化するように行動する反面、その企業行動を支えてくれる資本提供者(株主や債権者など)に対しても一定の利益を還元しなければならないため、彼らの利益を最大化するような行動をとっているとも考えられる。すなわち、企業と資本提供者の相互が利益を最大化できるような行動を行わなければならないと言うことができるだろう。 

 また、資本提供者の性格によってそれぞれの期待は異なっている。例えば金融機関の場合は貸付金とその利息を将来支払ってもらえれば彼らの要求は満たされる。株主の場合であれば、彼らの期待する配当よりも企業の将来の配当が上回り(income gain)また株価の上昇(capital gain)があれば彼らの要求は満たされる。よって、それぞれの資本提供者の期待をそれぞれ満たすべく行動を企業は行わなければならず、それを満たすために投資の意思決定を行い、彼らの期待と企業利益が噛み合うような割合で調達源泉を決定しなければならない。 

 この辺りの議論は「資本コスト」のところで何度か出てくる議論であるが、このように財務的企業行動を論じる場合、調達と運用(投資)の統一的な把握をしなければならない必要性があることを念頭においてもらって以下の議論を読み進んでいってもらいたい。 


2 資本調達の意義

 企業は資本を運用し、企業の運用活動の成果としての利益獲得を目指している組織体である。つまり企業活動は資本の存在無くしては成立せず、資本の量によって企業活動が制約されるということは自明であろう。また、資本が必要なときに必要なだけ調達できるか否かは企業の成長拡大の成否をも決定づける。以下、箇条書きにして、企業活動と資本調達の関係を整理してみる。

 
企業活動には資本が必要であり、その必要な資本が十分に調達されなければ、企業活動は調達可能資本枠内に制約され十分な企業活動ができない。 
企業活動を拡張するには資本調達可能性を高めなければならない。 
資本提供者は個人であろうが企業であろうが、資本の移動により資本提供者と資本受給者との間には権利・義務の関係が生じる。 
資本提供者の質的違いにより資本の質的違いが生じ、資本の種類によって資本提供者と資本受給者の権利・義務に差異がある。 
資本の種類の違いによって資本利用期間に差異がある。 
資本の提供は無償でなされるものではなく何らかのコストが生じる。
企業の形態、規模、資産の状況、経営状態などの違いにより企業の資本調達可能性に差異がある。

 簡単ではあるがこのような説明から、資本調達問題は企業活動にとって重要な問題であることがわかるであろう。 


3 資本調達源泉の種類

 資本の調達源泉ごとに異なった性格を有し、それぞれ異なったコストが発生することは簡単に先に述べたが、もう少し詳しく資本調達源泉の種類を見ていくことにする。 

調達形態を大別すると、以下の4つに分類できる。 


(1) 株式による資本調達(株式金融) 

(2) 社債による資本調達(社債金融) 

(3) 借入による資本調達(借入金融) 

(4) 経営活動に基づく資本調達(内部金融) 

 一般に(1)と(4)は自己資本と呼ばれ、(2)と(3)は他人資本と呼ばれるものであるが、こういった資本調達源泉(形態)がある中で、「どのような源泉からどの位調達するのが望ましいのか」という今回のレポートの中心命題(最適資本構成問題)に入る前に、上の4つの調達形態がそれぞれどのような性格を持っているのかを以下、示してみる。また、それぞれどのようなコストが生じるのかという問題は後の「源泉別資本コスト」のところで扱うことにする。

4 株式による資本調達(株式金融)

 株式による資本調達は、企業外部から調達した資本であるため外部資本(外部金融)とも呼ばれ、企業の解散や清算の場合を除いて元本を返済する必要が無いことから長期資本としての性格を有している。 

 参考までに株式の分類(商法上)をその権利内容、株券の様式に従ってしてみると、普通株、優先株、後配株、混合株、償還株、転換株、無議決権株の7種類がある。また、株券に券面額の有無による分類として「額面株」と「無額面株」がある。さらに、株式単位による分類として「単位株」「端株」というのもある。それぞれの定義はここでは必要ないので省略するが、普通株、優先株についてのみ説明を加えることにする。 


5 普通株 

 普通株とは権利内容に何ら限定を付けられていない標準的な株式であり、他の株式と区別するために普通株と呼ばれる。 

 普通株による資本調達は、設立時または新株発行増資に際して株主から資本の拠出を求める方法である。株主は、利益の分配にあずかる順位は最後であり、会社が赤字の時には配当を得られなくなるが、逆に会社の利益が大きければ高額の配当を得られる可能性もある。また、普通株式には株主総会での議決権があり、その限りで経営に参加できる権利を有する。 

6 優先株 

 優先株とは、会社存続中における利益もしくは利息の分配、会社解散時における残余財産分配、またはこの両者について普通株に優先する権利が認められる株式である。さらに優先株は配当率が固定しており、一般に累積的配当にあずかることが多い。すなわち、ある期に利益がなく優先株に配当がなかった場合には、利益が計上された期に定められた配当率が充足されるところまで配当を受けられるものである。しかし、優先株には議決権がないのが普通であり、この意味で経営参加権がなく、配当率自体も多少低めに設定されるのが普通である。 

 よって普通株と比較すると、配当を受け取れる確実性は増すが、配当額の面から言えば、経営成績が好調の時でも高配当を受けられないという性格を持っている。 

7 社債による資本調達(社債金融)

 社債とは、企業が債権を発行し、証券市場を通して直接投資家から、大量の長期資本を確定利付で借入をする方法であり、外部資本(外部金融)の一典型でもある。社債は社債発行時に公約した金利支払および元本支払が社債契約書で確定されており、その義務を企業は負うことになる。投資家たる社債権者からすると、かなり安全で確実な投資形態であるが、逆に企業がどれほど利潤をあげてもある限られた収益しか得られないという特徴を有する。 

 株式と比較すると、直接金融である点は類似しているが、その調達された資本は株式が自己資本であるのに対して、社債は他人資本=負債を構成する社債資本である。 

 社債にも様々な種類(CB,WBなど)があり、それぞれ異なったコストを有するが、それぞれのコストについて測定する議論までは入らないつもりなので、その種類は述べないことにする。ちなみに、社債が長期資本の調達形態であるのに対して、社債と似た性格を有するCP(Commercial Paper)という短期の資本の調達手段もある。 

8 借入による資本調達(借入金融)

 借入による資本調達は、企業財務の外部資本の最も一般的な調達方法である。この借入金融も「金融機関からの借入」や「企業間信用」など様々な分類ができるが、後の「資本コスト」の観点から、それぞれ述べないことにする。ここでは、一般に金融機関からの長期借入をさし、企業は将来、返済義務(一般的には元本+利息)を負っているものとする。このことから、借入は他人資本=負債として理解される。また、株式や社債が直接的に市場から資本を調達する直接金融であるのに対して、借入は<資本提供者→金融機関→企業>というフローで示され、資本提供者と企業の間に金融機関が存在するという意味で間接金融と言われる。 

9 経営活動に基づく資本調達(内部金融)

 内部留保と減価償却を合わせて内部金融と呼ぶ。内部留保とは、税引き後利益のうち、配当、役員賞与として社外に配分された残余分を意味する。減価償却費は会計上の費用であり、他の費用と同様に収益により回収されるものであるが、非現金支出費用なので社内にそのまま留保されるという意味で資本源泉となる。 

 内部金融は自己金融とも呼ばれ、株式や社債などの外部金融のように外部との債務が発生しない資本である。すなわち、配当や利子の支払、返済の必要がなく、資金的に制約が外部に課されることもないため、企業の自己資本の調達手段の中で最も安定した長期資本である。しかし、内部金融は企業収益の動向に大きく左右されるため、企業が資本調達を計画する際に事前に金額を確定できないというマイナス面もある。 

10 調達と運用の統一的把握

 このテーマを検討するに当たって、「資本」というものが企業とどれほど密接な関係にあるかを明らかにし、また説明することによって、今回の副題である資本構成問題としての資本の調達面と、投資意思決定問題としての資本の運用面の関連性が明示できると思われるためこの辺りから論じていこう。 

一見すると資本の調達問題と運用問題とは資本の循環プロセスの中で異なった位置にあるため、それぞれが独立していると思われがちだが、実はそうではない。企業は企業自信の利益を最大化するように行動する反面、その企業行動を支えてくれる資本提供者(株主や債権者など)に対しても一定の利益を還元しなければならないため、彼らの利益を最大化するような行動をとっているとも考えられる。すなわち、企業と資本提供者の相互が利益を最大化できるような行動を行わなければならないと言うことができるだろう。 

 また、資本提供者の性格によってそれぞれの期待は異なっている。例えば金融機関の場合は貸付金とその利息を将来支払ってもらえれば彼らの要求は満たされる。株主の場合であれば、彼らの期待する配当よりも企業の将来の配当が上回り(income gain)また株価の上昇(capital gain)があれば彼らの要求は満たされる。よって、それぞれの資本提供者の期待をそれぞれ満たすべく行動を企業は行わなければならず、それを満たすために投資の意思決定を行い、彼らの期待と企業利益が噛み合うような割合で調達源泉を決定しなければならない。 

 この辺りの議論は「資本コスト」のところで何度か出てくる議論であるが、このように財務的企業行動を論じる場合、調達と運用(投資)の統一的な把握をしなければならない必要性があることを念頭においてもらって以下の議論を読み進んでいってもらいたい。 

11 資本調達の意義

 企業は資本を運用し、企業の運用活動の成果としての利益獲得を目指している組織体である。つまり企業活動は資本の存在無くしては成立せず、資本の量によって企業活動が制約されるということは自明であろう。また、資本が必要なときに必要なだけ調達できるか否かは企業の成長拡大の成否をも決定づける。以下、箇条書きにして、企業活動と資本調達の関係を整理してみる。 

 企業活動には資本が必要であり、その必要な資本が十分に調達されなければ、企業活動は調達可能資本枠内に制約され十分な企業活動ができない。 
企業活動を拡張するには資本調達可能性を高めなければならない。 
資本提供者は個人であろうが企業であろうが、資本の移動により資本提供者と資本受給者との間には権利・義務の関係が生じる。 
資本提供者の質的違いにより資本の質的違いが生じ、資本の種類によって資本提供者と資本受給者の権利・義務に差異がある。 
資本の種類の違いによって資本利用期間に差異がある。
資本の提供は無償でなされるものではなく何らかのコストが生じる。
企業の形態、規模、資産の状況、経営状態などの違いにより企業の資本調達可能性に差異がある。 

  簡単ではあるがこのような説明から、資本調達問題は企業活動にとって重要な問題であることがわかるであろう。